何が書きたかったかと言われれば、素直に言います。ただ戦闘シーンが書きたかったのです。
あとは、クラウドに「『また』、返り討ちにしてやる」ですかね。
しかし書いてて思うのが、俗に言うCP要素が全くない。
スコールは静かにガンブレードを構えた。その視線の先には、『過去の英雄』がいた。
「何だ、お前か」
異常に長い刀が幾重もの斬撃の傷を地面に残していた。その線さえ美しく見えるのは捌きの手腕がなせるものだろう。一体誰と戦っていたのか。コスモスの戦士以外居ないだろうが、仲間の気配は感じられなかった。代わりに感じるのは、敵の気配。
「誰と戦っていた」
「別に。鬱陶しい奴を遠ざけたまでだ」
そう言って、セフィロスはコートを軽く払った。よく見れば、布の表面が煤けていた。魔法によるものだ。ケフカか、アルティミシアか、クジャあたりだろうか。仲間割れ、とまでは言えないだろう。カオスに仲間意識はないことは、幾度かの対面で気付かざるを得ない事だった。さらに、この男はどこかカオスからずれているようだとスコールは感じていた。世界をどうこうするとか、そんな言葉は一切語らない。歪み切った思考と視線はすべてあの兵士にのみ向けられている。
「私を倒しに来たのか?」
「貴様に限ったことじゃない」
ともあれ、『カオス』ならば、消すまでだ。
スコールは剣先を真っ直ぐ向けた。
口角がつり上がったかと思えば、セフィロスの姿が失せた。はっと息をのんだが、スコールは咄嗟に上半身を捻り、ガンブレードを盾にした。動作後わずかな間もおかず、耳障りな金属音が鳴った。
「ほぅ、反応したか」
細い刀身が切り刻まんと、盾にした剣を押していた。あとわずか反応が遅れていてでもしたら、自分の首はなかった。その無駄に長い刀が空を動いたときに発した音が聞こえたため、何とか追うことができた。
すぐにスコールは後ろに引き、距離を測った。最低でも二メートル以上。しかしその間にもセフィロスは動く。
「くっ」
あらゆるところからその細い刃が自分の身を突かんと飛び出してくる。しかし幸いなのは攻撃の後の隙が大きいこと。その秒間にスコールは反撃をした。
ガンブレードによる振動は、正宗にとって面倒な影響だった。長い分刃先がぶれ、それが手まで伝わった。もしこんな体でなければとうに刀を取り落しているに違いない。セフィロスは一度距離を取って柄を握りなおすと、再度上段に構えた。
耳障りな金属音と、風を切る音だけが聴覚を支配した。激しい応酬に全神経を注ぎ、スコールはすべての斬撃を払った。しかし突如、黒い魔法の玉が周囲に広がった。息を吐く暇もなかった。
――― しまった
咄嗟に斜め後方に飛んだ。魔法から逃れたのはよかったが、爆風に煽られ、体勢を立て直す時間がなかった。開けた視界で下を見れば、刀を真っ直ぐ自分に向けたセフィロスが自分を見上げていた。ガンブレードの衝撃で、致命傷だけは避けられるかもしれない。すでに刀は迫っていた。投げ出された腕を戻す時間はない。
引き金に手をかけた。
「スコール!」
「ッ!」
顔のすぐ横を、大剣が抜いていった。そのままその先にいるセフィロスへと向かったが、彼は左半身を後ろに引くことでやり過ごし、距離を取って着地した。大剣に対する驚きのせいで照準は乱れ、スコールは瓦礫と化した柱にぶつかった。いろいろ文句を付けたいが、衝撃で頭がうまく働かなかった。
不意に介入した兵士はそのまま突進して剣を掴み、背後に迫った目標目がけてバスターソードを力の限り振った。刃は正宗の腹に当たった。
「今度はお前か、クラウド」
セフィロスの声はどこか愉悦を含んでいた。
互いに厳しい視線を交わし、同時に地を蹴った。
――― クラ、ウド……
焦点の合わない目で見れば、自分とは比べようのない動きで、クラウドはセフィロスと対峙していた。彼との戦い方に慣れているにちがいない。しかしよく見れば、クラウドの身体にはいくつもの負傷があった。
――― 馬鹿か、あんな傷で
瓦礫の中から身を起こして、スコールは立ち上がろうとしたが、膝を立てて止まった。手助けをするべきか、それが頭をよぎった。アルティミシアが自分の標的であるように、セフィロスはクラウドの標的だ。仲間としては手を貸すべきだが、スコールはぎりぎりまで様子を見ることにした。
いくつもの血痕の残るクラウドの身なりを見て、セフィロスは嗤った。
「そんな体で、よく駆けつけたものだな」
「あんたには関係ない」
それでも、身体の動きに支障が出始めていた。大きく振り抜いた後の隙が大きくなってしまっていた。身体のひねりが傷を直撃し、痛みに呻いた隙を逃さず、セフィロスはバスターソードを弾いた。握力が一瞬下がったクラウドはそのまま剣を手放してしまい、それは数メートル先に滑っていった。
直後耳の横で銀刃が煌めいた。おそらく、取りに飛ぶより先に刺されるに違いない。クラウドは動きを止めてセフィロスを睨みつけた。刃は肩から胸部へと動き、中心で止まった。
「風穴を開けてやろうか」
セフィロスの刃先が、クラウドの胸部を軽く突いた。しかし臆することなく、クラウドはその刀身を掴んだ。
「『また』、返り討ちにしてやる」
「!」
その言葉に、セフィロスは即座に刀を引いた。同時に、目の数センチ先を何かが掠めた。距離を取って見れば、スコールがガンブレードを構えていた。外したことがよほど悔しかったようで、二発、三発と飛んできた。それを軽いステップで躱しながらセフィロスは考えた。あの時一瞬過った感情は何だ、と。軽い痛みを訴え始めた頭に手を当てながら、セフィロスは『人形』を見た。そこに何かが重なりそうだが、何も起こらない。成程、これが消えた記憶の影響か。
自嘲気味に笑みを浮かべたまま、セフィロスの姿は消え去った。
一瞬にして、静寂が戻った。完全に気配も消え去っていた。クラウドは大剣を回収しようと立ち上がったが、その前に柄が差しだされ、すまない、と断って受け取った。
「大丈夫だったか?」
確かに瓦礫の中に突っ込んだのは痛かった、が、スコールはじっと、クラウドの左手を見つめた。先ほど刀身を握ったせいで手袋は裂けていた。
「俺よりもあんたの方だろう」
クラウドは軽く手を振って見せた。
「これぐらいならすぐ治るさ」
バスターソードを背に回し、クラウドは聖域に向かった。スコールもそれに並び、ガンブレードを肩に担いだ。
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