タイトルは響きが仰々しいですが保護者の意です。
若干時間軸にずれが生じていたので、修正。Pixivもならって修正します。
それは、ほんの些細な会話から始まった。
いつものようにティーダがラグナ絡みでスコールをからかい、スコールがジェクト絡みでティーダをいじめ返していた。この間の会話にヴァンはついて行けないし割り込めない。本人たちは決してそんな気はないだろうが、楽しそうだなぁ、と思いながら黙ってパックのジュースを口にしながらその様子を眺めていた。
いつもならそれでお開きとなり、一人違うクラスのヴァンは借りていた椅子から立ち上がり教室に帰るのだが、今日は違った。
「ところで、ヴァンの所はどうなんっすか?」
「え?」
思いがけない質問が飛んできた。ヴァンは立ち止まり、二人を振り返った。
「いつも俺達ばっか騒いでるからさ、少し気になって」
そう言って、ティーダはどうなんだ、と詰め寄ってきた。スコールも無言で発言を促してきた。文脈的に言えば、多分家族のことだろう。
ヴァンは言うか言わないか悩んだが、自分だけが聞き手なのはフェアじゃないなと思い、口を開けた。
「俺、家族いないんだ。後見人って人はいるけど」
「……え?」
思わぬ返答に、二人は顔を見合わせた。そういえば、ヴァンが家族について話すことは一度もなかった。高校では授業参観もないし、進路相談も教師対先生の組み合わせで、保護者が出てくることがなかった。
「悪かった」
「俺、不躾っすね」
「いいって。話さなかった俺も……って、話しても一緒か。とりあえず、気にするな!」
そう言って、ヴァンは二人の肩を叩いた。ある程度克服してきていることは自覚していたからだ。
「今、生活費とかどうしてるんっすか?」
「学費は成績で一部免除してもらってる。残りはバイトで。寮代とかは、後見人の人が出してくれてる。あとでちゃんと返すつもりだけどさ」
――― 成程。
失礼承知だが、スコールは出会った当初からヴァンの成績が良いことに驚いていた。どんなことをしても成績だけは落とさない理由が、今やっと分かった。
七年前、両親は病で亡くなった。二人して同じ病気になったものだから、いずれ自分もこうなるのかとヴァンは恐れた。恐怖に震える身体を、兄のレックスは静かに抱きしめてくれた。その兄も、二年前に亡くなった。勤め先の上司に対するあてつけとして、悪質非道極まりない手段によって精神を壊された。しかし、取り立てて騒がれることはなかった。だんだんと目覚めている時間が短くなり、やがて眠りについたように、静かに去ってしまった。
レックスの埋葬から数日後、二通の手紙がヴァンの住居に届いた。一つめは左上の差出人の欄には住所とともにBasch von Rosenbergの名前が押されていた。レックスが尊敬していた人だとヴァンが認識できたのは、楽しそうに何度も話す様子を覚えていたからだった。
封を切って中を見ると、まず謝罪の言葉がつづられていた。その文字が手書きであるあたり、非常に真面目な人柄の様だ。彼の仕事の都合上、敵が多いことは聞いていた。別にバッシュに責任をなすりつけようなんて考えていない。楽かもしれないが、兄は決して望みもしない。
――― 謝罪って、こんなに書けるもんなんだな
罫線がないにもかかわらず綺麗に並んだ文章の、二枚入っていたうち一枚は、見事に謝罪で終わった。変わって二枚目は、非常に、驚きと疑問が残る内容だった。それは、自分の後見人になりたいという申し出だった。顔も知らない相手を後見人にするのは無謀とも思えたが、レックスが信頼している人なら、とヴァンは承諾することにした。この時気づいていなかったことだが、この手紙に押されていた消印は王室に関わる人間の証明として使われているものであった。
もう一つは、異説学園の結果通知だった。今まで幾度も高校までは出ておいたほうがいい、とレックスにだけでなくバイト先の仲間にも言われたため、折角受けるなら有名なところにしようと受けたところだった。この時ほど勉強というものに打ち込んだことはなかった。昼はバイト、夜は勉強というハードなスケジュールの甲斐あってか、中には見事合格の文字があった。全額免除、とまではいかなかったが、ある程度の補助が受けられるだけの成績を出すことができた。
このことも書いておかないと、とヴァンは返事を送った。
――― あいつには、直接言えばいいか
クラウドはジュノンに来ていた。空の足である飛空艇の着陸場には、イヴァーリス大陸からやってきた貿易の艇団が停泊しており、食品、工芸品、機械等々、様々な貨物が行き交っていた。
クラウドも同様、注文していた品を受け取りにここへ来た。飛空艇の搭乗口でリストを片手に貨物の移動指示を出している金髪の男に近づいた。シュトラール・トレード・カンパニーのトップ、バルフレアであった。
「バルフレア」
「クラウド?あぁ、ちょっと待ってろ」
そう言うと、バルフレアは飛空艇の中に入って行き、数分もしないうちに戻ってきた。入った時と違うのは、その手に赤い花束を持っていること。目測花は十輪ほどあった。
「これだけあれば充分だろ」
「多分」
依頼主にその用途は聞いていなかったが、部屋に飾るのには十分な量だと思った。
バルフレアはボードで肩を叩きながら言った。
「ガルバナの花が欲しいなんて、モノ好きもいるもんだな」
「ガルバナというのか、この花。ミッドガルでは咲かないらしい」
栽培もしてみたが、ダメだったらしい。耳や尻尾でもあったら垂れていそうな後輩の顔を思い出していると、その様子が思い浮かんだのか、バルフレアは笑った。
「確かにこいつは亜熱帯でなきゃ咲かない種だ。ところで話は変わるが、あんた確かディシディアの卒業生だったよな?」
「話した覚えはないが、そうだ」
ミッドガルにいる学生は、ほとんどがディシディア、異説学園の愛称、の生徒である。もっとも、クラウドの通っていた頃は『新羅高等学校』という名前だった。
バルフレアは時計を見た。15時24分、まだ高校は授業中だろう。
「この後五番街まで案内してくれないか?」
「行けるだろう?」
ジュノンとミッドガルは直通路線で快速電車が走っていた。おもに運ぶのは物資だが、商人たちの足としても一役買っていた。そしてミッドガルの五番街には、異説学園の高等部が置かれている。
「代金追加しておくからさ」
「送っていけ、ということか」
「そういう事。どうせその花もそこに届けるんだろ?」
あと少しで終わるから、待っていてくれ。そう言い残して、バルフレアは仕事に戻った。
ティーダは部活、スコールは委員会の仕事があるということで、ヴァンは一人で校門の前にいた。先ほどクラウドから頼んでおいた花が届いたと連絡が来たからである。そしてこちらに来る用事があるから、校門前で待っているようにも言われた。門を抜ける生徒もまばらになり始めた頃、バイクの低いエンジン音が聞こえてきた。黒い大型のバイクはクラウドのものに間違いなかった。後ろに誰かを乗せているようだ。用事とは、後ろの人をどこかに送るのだろう。だとしたら、待たせるのは悪い。受け取ったらすぐに行ってもらおう、とヴァンは思った。
クラウドはヴァンの前で止まると、彼の腕に花束を置いた。
「頼まれていたものだ」
「……本当にきた」
管理も徹底されていたようで、花は瑞々しく、花弁の端さえも腐っていなかった。驚くヴァンの様子を見て、クラウドは小さく溜息を吐いた。
「頼んでおいてそれはないだろう」
「だって、来るなんて思ってなかった。クラウドこの花知らないだろ?」
「お前と同じ国出身の奴なら分かると思って」
「俺が引き受けたってわけだ」
後ろに乗っていた人物がヘルメットを脱いだ。その顔は忘れもしない。
「久しぶりだな、ヴァン」
「何で?!」
驚きのあまり折角受け取った花束をヴァンは危うく落としそうになった。慌てて花束を抱え直して、改めて顔を見る。
「あんたの用事って」
「そう、こいつに会う事だ」
バイクから降り、クラウドにヘルメットを返したのはバルフレアに間違いなかった。
「じゃあ、俺はこれで」
「あぁ、またよろしくな」
受け取ったヘルメットを被り、クラウドは走り去っていった。
久しぶりに会ったので何を言えばいいかヴァンがあれこれと考えているところ、バルフレアは校門の先にある立派な建物を見て言った。
「急に高校に行ってくる、なんて買い物みたいな気軽さで言うもんだから冗談だと思ったが、まさか本当にディシディアとはなぁ」
お前の学力で入れるなんて、大丈夫かこの学校。その言葉にヴァンはむっときた。
「バカにするなよ。これでも俺、順位はいいんだからな」
「はいはい」
今一つ信用していない様子に今すぐ成績表を見せつけてやりたかったが、生憎その所在は家であった。
「あとはこいつだ」
ベストの内側から、バルフレアは一通の封筒を取り出して、ヴァンに渡した。封はされていなかった。口を開けて中身を取り出すと、羊皮紙風の厚手の紙がでてきた。折を開いて行くと、見出しに『Strahl Bordkarte』と書かれていた。
「これ何?」
そのまま文章をたどっていくと、自分の名前、出発場所、出発時刻、到着時刻、そして簡潔な結びとともにバルフレアのサインが入っていた。
「どこかの過保護な後見人が煩くて、ついに連れて帰って来いなんて依頼を寄越したんだよ。で、俺は拉致る仕事はしないから」
「ありもしない搭乗券ってことか」
その声は沈むどころか、むしろ喜んでいた。
「特注だ」
「やっぱ、一度帰った方がいいよな」
早速と言わんばかりにヴァンは携帯を取り出した。もちろん、バイトを休みにしてもらうためであった。
裏設定:ミッドガル内をエアバイクで走ることは禁止事項。12いろいろみてよんで覚えた。でもまだまだ。
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