ナチュラルにレオンと兄弟。いい職に違いないこいつ。裏設定でクラウドは二人の幼馴染でレオンの後輩。結構仲良くて蒸発していた時も気にかけていた(結局留学という落ち)。
スコールは高校生というものを体験していなさすぎだ。
夕食の席で突然、ラグナに面と向かって言われた。何か物言いたげな顔をして自分を見ていたと思えば何を言っているんだこいつは。スコールは鬱陶しいと言わんばかりに眉間にしわを寄せて目を閉じ、みそ汁を啜った。常に洋食の毎日の中、久しぶりの和食は美味しく新鮮に感じられた。向かいでは返事ぐらいしろよ、とラグナが箸を自分に向けていた。
「行儀が悪い」
とりあえず返事をしておいた。すぐにそうじゃなくて,
と抗議が入る。だからまずその箸を下ろせというんだ。スコールは溜息を吐いて箸を止めた。
「別にあんたには関係ないだろ」
「関係あるさ!十七歳なら彼女の一人でも作って放課後デートを楽しんだり家に連れてきて遊んだりオレがいないときに」
「黙れ食事中だ」
聞いていられないと言わんばかりにスコールは残りわずかな夕食を口にかきいれて、席を立った。この後は明日の予習と今日の復習がある。定期テストも近いので、参考書も進めておくのが良いかもしれない。そんなことを考えながら足早にダイニングを出た。
「ちょ、スコール!」
空しくも、ラグナの呼びとめに応じることなく扉はしまった。
部屋に戻ると、丁度いいタイミングで携帯が震えた。開いて見れば「Leon」と表示されていた。
「もしもし?」
『早いな。夕食が終わった頃か』
「あぁ」
電話越しに向こうの音が聞こえた。アナウンスに喧騒、ジェット機の音。どうやらレオンは空港にいるようだ。
「帰ってくるのか?」
『あぁ、久しぶりに休みが取れたからな』
そういうレオンの声は嬉しそうだった。
「そういう連絡はラグナに入れればいいだろ。飛んで迎えに行くだろう」
『スコール。父さん、だろ』
不意に厳しくなった口調に、スコールは目を伏せた。
わかってはいるのだが、どうしてもそれができないでいるのはひとえにスコールのせいではない。もともとレオンとスコールは親のいない兄弟として、孤児院で暮らしていた。もちろん自分たちの親はいなくなったのだと認識していたし、お互いがいた故寂しさは軽くなっていた。そこに、突然父と名乗るラグナが現れた。しかも隣国エスタの大統領など、どこのドラマの設定か。最初こそ信じられなかったが様々な検査を経た結果、法的にも科学的にも父親であることが証明された。それがほんの三年前。レオンは丁度大学を卒業して就職するころで、さらに社交的な性格からラグナとはすぐに打ち解けた。一方のスコールは、信用こそしているものの、どうしても突っぱねてしまった。子供みたいに納得できるかなんて言えないし、かといって甘えるなんてことは問題外だった。レオンのいない家で、ラグナの折れない性格も相まって、なんとかやっていけているようにも感じた。
スコールはそのままベッドに座り、単語帳を開いた。
「なぁ、兄さんは高校生の時どうだった?」
『どう、とは?』
「ラグ……父さん、に高校生らしくないって言われた」
単語を追いながら綴りを指先で描いた。vacant、execute、divine。
『スコールは真面目だからな』
「兄さんだってそうだろう」
むしろ自分以上じゃないか。そういうとレオンは笑った。
『勉強はまぁ手を抜かなかったが、授業後はクラウドとよく遊びに出掛けた。ゲームセンター行ったりカラオケで歌ったりしたさ』
「でも、休日だけだろう」
『お前は休日も勉強、だろ』
「……」
スコールは手を止め、単語帳を閉じた。
『そんなに難しく考えるな。っと、そろそろフライトの時間だ』
「じゃあ、また」
『またな』
向こうが通話を切ったのを聞いてから、スコールは携帯を耳から離した。ぱたんと閉じて、枕の横に放った。
――― 難しく考えるな、か
「……というわけで、授業後の高校生の活動を知りたい」
空いた口がふさがらないというのはこのことじゃないか。ティーダとヴァンはぽかんとした表情で、スコールを見た。その表情は真剣で、とてもじゃないが、要約「授業後遊びに行こう」と言っているように見えなかった。完全に遊びじゃなくて体験になってしまっている。スコールと遊びにに行くとなるとどこからが良いだろうか。本屋になんて行ったら絶対参考書とか学術書の方に行きそうだし、ゲームセンターなんてイメージないし、カラオケって、スコールは何を歌うんだろう。いくら考えても、ティーダに結論は出せなかった。
「じゃあケーキ買いに行こう」
「ヴァン?!」
何がじゃあ、なのか全くわからないヴァンの発言にティーダはその頭を叩いた。
「いきなりハードルあげてどうするッスか!」
「だって、兄貴が帰って来るならなんか用意した方がいいだろ?」
「それもそうだな」
かれこれ一年顔を見ていないのだ。帰ってきて何もなしというのも寂しい気がした。ケーキなら手軽なうえプレゼントのように悩む必要も少ない。
「よし、ケーキを買いに行くか」
「……もうどうにでもなれッス」
授業後、スコール、ティーダ、ヴァンの三人は門前に集まっていた。何事かと門を抜けて帰る学生たちが視線を送るが、少なくとも二人は意に介していなかった。
――― スコールのせいッスね
ティーダはちらりと視線を向けた。女子学生たちが黄色い声を上げながら過ぎ去っていく。彼らが真剣な顔をして今から何をしようとしているかも知らないで。
――― ケーキ買いに行くだけなのに、何なんッスかね、これ……
いつも自分の方がつっこまれる役なのに、今回はスコールにつっこんでばかりだとティーダは思った。
「で、どこの店に行くんだ?」
「そうだなぁ」
ヴァンは顎に手を当てて様々な店の名前を並べていった。中には本当はチョコレート専門店の名前も含まれていた。
「あ、そういえば『ハイウィンド』ってところのケーキが美味しいってパンネロが言ってた」
「『ハイウィンド』?」
聞いたことのない店の名前だった。
「最近できたばかりで、作ってるのはバリバリのおっさんなんだけど、雑誌にも載ってた」
「ここから近いのか?」
「駅前からちょっと入ったところ」
「じゃあそこに行こう。道案内を頼む」
「オッケー」
ヴァンは軽い足取りで先頭に立った。
カフェ『ハイウィンド』は帰宅途中の学生で賑わっていた。学校からの最寄駅に近いため、スコールたちと同じ制服を着た学生が多かった。
「いらっしゃーい」
入ると、チャイムが鳴り、黒髪のショートの女の子がフランクに声をかけてきた。自分たちと同い年ぐらいで、一見すると少年のようにも見えた。ショーケースの上から身を乗り出して、今日のお勧めはこれだよ、とフルーツタルトを指さした。
「ユフィちゃーん」
テーブル席の方から声がかかった。
「はいはーい、っと、決まったら呼んでね」
ユフィと呼ばれた店員はぴょん、と効果音が付きそうな調子で床に足を付けて、呼んだ客の方へと歩いて行った。
ティーダとヴァンはショーケースの前にしゃがみ、どれにしようかと品定めを始めた。
「どれにする?」
目の前には色とりどりのスイーツ。先ほど薦められたタルトも良いが、上品な風貌をしたチョコレートケーキも捨てがたいし、紫いもでできたモンブランも美味しそうだった。
「こういうのって結構悩んだりするよな」
「うん、俺も迷う」
しかし、スコールはそうでもなかった。
「チーズケーキと、このチョコレートケーキと、あのタルトだな」
――― 意外とあっさりしてた!!
「決めるの速いな」
ヴァンが感心したようにスコールを見上げた。
「選ぶも何も、食べるものが決まっているから悩むこともないだろう」
自分はチーズケーキ、ラグナはチョコレートケーキ、レオンはタルト。なんとなく出来上がっていた図式だった。誕生日の時もホールケーキを買わず、こうして好きなケーキを選んで買っていた。一度ラグナがせっかくだからとホールにしようとしたが、三人で食べ切れるわけないだろう、とレオンがやんわりと止めた。ホールケーキを食べたのは孤児院を出てからは一度もなかった。
「……珍しいな」
「「「クラウド」」」
不意にかかった声に反応して振り返ると、本当に珍しいものを見る目をしたクラウドが立っていた。腕には割合小さい段ボール箱を抱えていた。
「それなんッスか?」
「シドに頼まれた材料だ」
中身は俺も知らない、とクラウドは言った。箱に苺と書いてあるのだが、関係がないのだろうかとスコールは思った。
ヴァンは視線をクラウドからケーキに戻した。
「今日、レオンが帰ってくるんだって」
「……それは本当か?」
「あぁ、昨日電話があった」
スコールがそういうと、クラウドは溜息を吐いた。
「俺には音沙汰なしか」
心なしか、本当に寂しそうに聞こえた。仲が良いのならクラウドにもちゃんと連絡を入れろよ、とスコールは思った。
するとホールが一段落したようで、ユフィが戻ってきた。
「どれにするか決まったー?……って、クラウドじゃん。どうしたの?」
「頼まれてた材料だ。あと、レオンが帰ってくるって」
「レオン?」
箱を受け取りながら、聞き覚えのない名前にユフィは首を傾げた。
「シドに言えば分かる」
「りょうかーい」
シドー!と大声でユフィが叫んだ。するとやや掠れた怒声が返ってきて、ユフィはそのまま箱ごと奥へと姿を消した。そして入れ替わって出てきたのは、やや色の抜けた金髪をしたパティシエだった。ヴァンの言っていた通りたしかに『おじさん』と呼ぶにふさわしい年齢の外見で、菓子を作るよりむしろ機械を弄っている方が似合いそうだった。
「よう、クラウド。いつもすまねぇな」
「別に。仕事だからな」
そういってクラウドは荷物票をだし、シドはレジの横に置いてあったボールペンでさっとサインを書いた。
「で、レオンが帰って来るってのは本当か?」
「あぁ。スコール、弟に連絡があったんだって」
クラウドの視線を追って、シドはスコールの方を見た。
「本当にレオンに似てんなぁ」
あまりにじっと見てきたものだから、居たたまれなくなりスコールは視線を下に向け、ちいさく息を吐いた。
「兄貴とそんなににてるのか?」
「……かなり似ているらしい」
レオンを知ってる人が自分を見るたびに、似ているだの、瓜二つだの、縁起でもなく生き写しという人までいた。顔についた傷も、レオンはクラウドを庇って、スコールはサイファーと一世一代の喧嘩をして残った。
やがて観賞を終えたシドはショーケースに身を乗り出して言った。
「スコール、好きなのもってけ」
「いや、それは」
スコールは慌てて首を振った。
「いいってことよ。俺様もレオンにはでけぇ借りがあるからな」
「借り……?」
その意味が解らないでいると、クラウドが教えてくれた。
「もともとケーキ屋に変えたらどうだって提案したのはレオンなんだ」
なんとなく納得ができないでいたが、あまり時間をとってもまずいと思い、スコールは先ほど決めた三つを頼んだ。シドは本当に会計を通さず、そのまま箱に詰めて、シールを張って、ほらよ、と手渡してきた。何とも言えない感覚が気持ち悪いが、好意を無下にはできない。
「あんたたちはいいのか?」
スコールは振り返って、ティーダとヴァンを見た。
「別に俺らは買いに来たわけじゃないし」
「おめぇらももってけ」
ほら、と言ってシドが二人に渡したのは小さな箱だった。ちょうどケーキが一個入るぐらいの。見れば、フルーツタルトが二切れ減っていた。
「ありがとな、おっさん」
「サンキューな」
「おう。代わりに何か祝い事があるときにゃあ、俺様んとこのケーキを買っていけよ」
「もちろん!」
その様子を見て、なかなか商売上手な男だと、スコールは思った。
「何だ、俺にはないのか」
そう呟いたクラウドの不満は、シドにばっさりと切り捨てられら。
「おめぇは家に帰ってティファの飯を食え」
その後はケーキのこともあって、ゲームセンターに寄ると言い出したティーダ、ヴァンと別れ、スコールは真っ直ぐ家に帰った。多分こういうところがあの高校生らしくないに繋がるのかもしれない、と自己分析をしながらスコールは家の玄関扉を開けた。
「お帰り、早かったな」
「……ただ、いま」
返ってきた声にスコールは驚いて顔を上げた。見れば、いつもスーツを着ているレオンが私服を着て立っていた。足音が聞こえたらしくて、玄関まで来たとのこと。
「空港に着いたら丁度父さんと入れ違いになって、そのまま秘書の人に送ってもらったんだ」
ということはラグナは仕事に行ってしまったということである。しまったな、とスコールは視線を手に持っていた箱に落とした。
「その箱はどうした?」
「……帰ってきたから、三人で食べようと思って」
そう言って手渡された箱のロゴを見て、すぐにレオンは中身を理解した。
「あぁ、シドの所のケーキか。懐かしいな」
リビングへと場所を移して箱を開ければ、チーズケーキとチョコレートケーキ、そしてタルトが並んでいた。レオンは食器棚から皿とフォークを出して並べ、チーズケーキとタルトをその上に置いた。
「シドのケーキはもともと賄いで、『三時の飯だ!』って言って出してくれていた」
飯という言葉とともにケーキが出て来た時はクラウドと一緒になって驚いたっけな、とレオンは思い返した。確かに飯と称してこれが出てきたら自分でも驚く、とスコールは心中で同意した。
「一つ、どうしようか」
レオンの方を見ると、悪戯っぽく笑っていた。
「二人で分けるか。どうせ今日明日は帰って来れそうにないからな」
そういって付いていたテレビの方を指した。そこには飛行機でサミットの会場入りをしたラグナの姿が映っていた。無理に着せられたであろう筋の入ったスーツに、思わず笑みがこぼれた。
ラグナの分のケーキは、また今度買ってこよう。スコールはまた寄り道をする理由ができたと考えながら、ケーキを頬張った。
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