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日常/感想/二次創作小説※重要。小説へはカテゴリーの一覧から飛んでください。取扱CPはDRRR:臨静臨/APH:東西&味覚音痴/異説:78中心天気組/黒バス:赤降赤/VGユニット:騎士団航空海軍他。DRRRは情報屋左推奨中。TV小説漫画DVD所有。APHは東西LOVE独語専攻中。漫画全巻CD原作柄所持TV二期迄。異説はもう天気組愛。原作は7のみ。コンピ把握。81012は動画攻略wiki勉強。究極本厨。赤降気味でリバOK。VG擬人化フレイム・サンダー辺りとか。コメント・誤字指摘歓迎します!!転載とかはご遠慮願います。
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2024/11/22 (Fri) 00:13:30

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No.163
2012/01/07 (Sat) 22:39:50

第五話。

それは、終業式が終わって数日経った頃のことだった。
 夏休みに入り、エアコンの効いた自室でいつものように問題を解き、分からないところを臨也に聞くというサイクルを繰り返していた中、不意に臨也が声をかけた。
「そうだ、静雄君」
「何?」
静雄は手を止め、臨也の方を向いた。
「ずっと家じゃ気が滅入っちゃうでしょ。だから」
今度俺の家で勉強しない?
 その誘いに、静雄は特に断る理由は無かった。普通なら何かしら断る理由をつけるべきところだが、家庭教師だが家庭教師と感じさせない臨也の空気は確かに静雄を侵食していた。
 静雄の夏休みの予定が、一つ決まった。

 
 夏の太陽が眩しく地面を焼きつける中、静雄は新宿の待ち合わせに指定された場所に立っていた。肩にかけている鞄の中には愛用の参考書とノートと筆記具他、財布や携帯電話などが入っている。時計を見れば、約束の時間まであと十分程あった。単語の一つや二つ暗記するのにちょうどいい時間だったが、静雄は目の前や周りを過ぎていく人々を見ていた。そうしているとやはり池袋とは違うのだなと思った。まず明らかに大人が多い。静雄のような学生も歩いてはいるが、池袋に比べればどこか肩身が狭そうに見えた。
 壁にもたれかかりながら、静雄はまとわりつく熱気に顔を顰めた。
――― 暑い……
ヒートアイランド現象という言葉が静雄の頭に思い浮かぶ。本当に暑い。ビルが太陽光を反射するだけでここまで局地的に温度が上がるのか。人類発展の負の遺産め。暑い。静雄は心の中で罵った。建物の中に入り涼を取ろうとも思ったがしたがあと九分。臨也はもう来るだろうと思い、静雄はそのまま待つことにした。しかしそのまま陽の下にいては熱中症になる。そう考え、静雄は建物のひさしで丁度影になっている所に移動した。そんな所でも、日向より幾分涼しく感じられた。
そして静雄の予想通り、二分後に臨也は現れた。
「や、静雄君」
「こんにちは」
今日も今日とて暑いというのに、臨也は相変わらず黒い格好をしていた。
「その格好、暑くないのか」
「特には。俺平熱低いし」
――― いやそれは関係ないんじゃないか…?
しかし静雄は無駄な返答と考え、思っても口に出さない。
「もしかして俺結構待たせちゃった?」
「いえ、そんなことはないです。俺もさっき来たところだから」
「じゃ、行こっか」
そう言って踵を返した臨也に、静雄はついて行った。

 
 それにしても人が多い。若者からお年寄りまで様々な人が静雄たちと逆のほうへと歩いてきた。そのため大量の人の波の間を縫いながら、二人は進んでいくことになった。臨也の方は慣れているので、すいすいとそこに道があるように何事もなく歩いていった。
「ちょ、待っ…」
一方の静雄は地元とはまた違った人の流れについていけなかった。見失うことはなかったが、軽く人にぶつかってしまいながら臨也の後を追った。
十数分後、急に人がいなくなった。静雄は来た道を振り返って呟いた。
「何で、あんなに人がいたんだ?」
「あぁ、多分百貨店でバーゲンと物産展をやっているからじゃないかな。昨日広告入っていたしね」
そう言われれば、頷くしかなかった。静雄もその広告を見た記憶があった。といってもさして興味がなかったので流し見程度だったのだが。
それからは人の少ない道を歩いた。どうやら都庁側へと進んでいるようだった。次第にフォーマルな格好をした社会人たちが行き交い始め、私服の二人が逆に浮き始めた。そして新宿にしては閑静なその場所の一角に、大きなビルがあった。周りのビルに引けを取らず、高層であった。臨也はそのビルの入り口で足を止めた。
「ここ、ですか?」
「うん、ここ」
静雄はもう一度、ビルを見た。周りを見れば、趣向の凝らされたものもあれば、典型的な直立不動のものもある。しかしどれをとってもあくまで「会社」のビルであることに変わりは無い。どう見ても「住居」には程遠いような気がした。
 そうあれこれ考えているうちに、臨也はビルの中へと入って行ってしまっていた。
「っと」
鞄を持ち直し、静雄は小走りに臨也の後を追った。

 
 玄関らしきドアの所に立ち、臨也がさぁ鍵を開けようと鍵を鍵穴に刺そうとしたところ、閉まっているはずの家のドアが、まるでタイミングを見計らったかのように開いた。
「おかえりー!!」
「…帰…」
室内から飛び出してきたのは二人の可愛い女の子だった。そして彼女たちはそのまま臨也の腰へと抱きついた。その勢いに臨也は少しよろめいたが、こけることなく踏みとどまった。
一人は眼鏡をかけて長い髪を三つ編みにしており、もう一人はショートでボーイッシュなイメージだった。互いに顔の造形が非常に似通っていたので、双子なのだろうと静雄は思った。彼女たちの雰囲気が、醸し出す空気が臨也と近かった。確認を取ろうと臨也の方を見ると、なんだかとても嫌そうな顔をしていた。しかしそこに不審者を見る目は無かった。
「…何でお前らがいるの?」
「今日遊びに行くって言ったよ?ねー、クル姉」
眼鏡の少女が隣にいたボーイッシュな女の子に言った。すると彼女は頷き、静雄の方を見た。それに倣うように眼鏡の少女も静雄の方を見た。
「あー!あの時の先輩だー!」
「…謝…忘……」
「…え?」
完全アウェーな状況であった中突然声を掛けられ、静雄は反応が遅れた。
 ふと視線を下せば、先ほどまで臨也の腰に抱きついていた彼女たちが、自分の腰に抱きついていた。そしてぐいと下に引っ張られ、女の子相手に力を使うわけにはいかず、静雄はそのまま膝を折った。
「あの時はありがとうございました!」
「…心…謝……」
そう双方の耳から聞こえたかと思えば、頬に柔らかい感触があった。
「ぅわッ?!」
その感触に驚き、何をされたのか理解すると、静雄はそのまま腰を落とした。見上げれば、彼女たちは笑顔を浮かべていた。
「お前ら…」
臨也はため息をつくと、彼女たちの襟周りを掴み、静雄から引き離した。
「あややや…」
「……」
「ほら、出かけてくるんじゃないのか?」
「あ、そうだった!クル姉急がないと!バウムクーヘンなくなっちゃう!」
「急…!」
二人は互いに頷きあうと静雄たちが乗ってきたエレベーターに乗り、下の階へと降りていった。
 急に静かになった。
「……」
「とりあえず…家、入ろうか」
驚いて呆然と膝をついたままの静雄に、臨也は声をかけた。静雄ははっと我に返り、ばっと立ち上がった。
 中に入ってみれば、普通に家と呼べる光景が広がっていた。ワンルームに近い構造をしているが、棚や段差でスペースが区切られていた。奥には階段もあり、二フロア分を使っていることが分かった。
 静雄が案内されたのはリビングだった。触り心地の良い黒いソファに座り、キッチンへと消えていった臨也を待った。
「……」
頭の中は、先ほどのことでいっぱいになっていた。あの衝撃で、彼女たちを見たことがあったことを静雄は思い出していた。それは入学式が済み、学校全体が落ち着き始めていた頃のことだった。久しぶりに喧嘩を売られず何事もなく一日を過ごせたなぁと思いながら校門へと歩いていたところ、校門前が騒がしかった。見れば昨日負かした集団が女子二人を囲んで何か言い争っていた。セーラー服を着た女子が体操服を着た女子を庇うようにして一人男たちに立ち向かっていた。生徒たちはみな巻き込まれまいとそこを避けて通っていたが、静雄は迷うことなくそのまま突っ込んだ。
 セーラー服の襟に伸ばされようとしていた手を掴み取り、そのままぎりぎりと言わんばかりに静雄は握力で締め付けた。
「昨日ケンカ売ってきたと思えばよ…今日は女を脅して…男として最低だよな手前らああぁぁッ!!」
そしてそのまま男を校門前の道の向こう側へと飛ばしてやった。昨日の今日なので、まだ静雄に対する恐怖が抜けきっておらず、そのまま集団は散り散りとなって消えた。そして大丈夫かと後ろを振り返ったところ、女子たちもすでに姿を消していた。
 その時の女子二人が、彼女たちであった。
 ――― あの時の奴らか
 すると、臨也が戻ってきた。手にはグラスの乗ったお盆を持っていた。テーブルに置かれれば、からんと氷のぶつかる音がした。中身はサイダーだった。
「お茶の方がよかった?」
「これでいいです」
一口飲めば、炭酸の独特の風味が喉を刺激し、冷たくてとても心地が良かった。
「さっきはごめんね。妹たちが突然あんなことして」
「いや、驚いただけで、そんなに気にしていないというか、なんというか…あ、妹だったんですね、やっぱり」
やっぱりという部分に、臨也は首をかしげた。
「やっぱりって、そんなに似ているかな?」
「別に顔とかは似てないけど、雰囲気というか、動作というか」
「あぁ、…まぁ、結構俺の影響受けているからね、あいつら」
「確かに」
無意識のうちに、静雄はそう呟いていた。
「先輩ってことは、同じ学校なの?」
「はい、今さっき思い出しました」
「へぇ…」
そうかそうか、ふーん。
臨也はグラスに口を付けながら、同じようにしている静雄の方を見た。
 ――― まぁ、このことは後で考えることにしよう。今考えだしたら長くなりそうだ。
簡潔にまとめ、グラスをテーブルに戻した。
「さて、勉強しようか」
グラスをテーブルに置き、一つ手を叩いて、臨也はソファから立ち上がった。
「ここじゃ文字書きにくいからダイニングにでも移動しようか」
しかしすぐにまた腰を下ろすことになる。
「いえ、別にソファに座らなければ…いや、移動した方がいいですか」
「いや?俺は別にかまわないよ」
静雄はソファから降り、カーペットの敷かれた床の上に座った。ある程度幅があったので楽に座れた。鞄から参考書とノートとペンケースを出し、テーブルの上に並べた。
「今日は化学?」
参考書の表紙を見て、臨也は言った。
「構造推定の問題がまだ慣れなくて」
静雄は参考書とノートを開いた。
「そうだね、あれは結構面倒だと俺も思う。でもコツさえつかめばすぐに慣れるよ」
臨也も一段下がってカーペットの上に降りた。そしてテーブルの下の引き出しを開け、中から紙とボールペンを出した。
「この問題です」
問題番号を指で示し、静雄は臨也の方を見た。
 臨也はしばらく問題を眺めた。そして考えがまとまったようで、臨也は構造式と説明を紙に書き始めた。
「この問題だったらまずA、B、Cの分子式がC8H10O2と与えられている。次に実験1を見るとAは水酸化ナトリウムでけん化されている。ここでAはエステル結合をもっていることがわかるから、ベンゼン環にカルボン酸とアルコールもしくはフェノールが一置換体で結合している。それらをジエチルエーテルに溶かして二酸化炭素を吹き込むと生成物Dが出てきて、実験2でその生成物Dに濃硝酸と濃硫酸を加えるとピクリン酸が出来上がるわけだから、生成物Dはフェノールであることがわかる。ここからさっきの物質Aはフェノールとカルボン酸のエステルだから構造を合わせると、C6H5OCOCH3ということになる…って具合かな」
臨也は一度もかむことなくつらつらと、ちょうど静雄が分からなかった問題の解説を進めた。しかし静雄は途中から意味が分からず、後半は殆ど聞き流してしまった。
「…ピクリン酸って、何だ?」
「2、4、6‐トリニトロフェノールの別名だよ。黄色の結晶で、火薬にも使われる物質」
「…覚えてない」
「慣用名だから参考書の隅っこにしか載ってないかもね」
さらさらとルーズリーフの上に、臨也は構造式を描いた。それを見て、静雄はあぁそういえばこんなような物質を先生が黒板に書いていたなぁと思い出した。静雄はその下に自分の字で「ピクリン酸」と書き足しておいた。
「さて、続きだ」


 
 外は少し日が傾き、橙の空が広がり始めていた。勉強は静雄の予想以上に捗り、環境の違いもあって、三時間連続して集中力が続いた。しかしまた予想以上に疲れ、頭が寝起きのようにぼーっとした。行きよりは若干人の減った大通りを進んで、静雄と臨也は山手線新宿駅の改札付近にいた。
「今日はありがとうございました」
そういって軽く腰を折る静雄を見て、臨也は肩をすくめた。
「敬語、やっぱりやめてくれないかなぁ」
「分かった」
静雄からあっさりとした返事が返ってきて、臨也は目を見開いた。
「あれ?意外に早い。前みたいに言わないんだ」
「疲れるんだよ、敬語って。慣れねーし」
折原さん以外に使わねーし、何か面倒になった。
敬語が無くなっただけで、静雄の空気が少し柔らかくなった気がした。敬語ってすごいなぁ、と臨也は思った。
「じゃ、また明日…あぁいや、明後日だね」
「じゃあ、な」
改札を抜けてすぐ、静雄は一度振り返った。しかし何か言うわけでもなく礼をするわけでもなく、ただ振り返って、そのまま人ごみの中に消えて行った。
 静雄の姿が見えなくなり、臨也も改札に背を向けた。足取りに乱れはなかったが。
 ――― ヤバい。本当、…あぁー、どうしよう……
振り返ったときの静雄の表情に、ひどく掻き乱された。
 振り返ったその一瞬、不器用な、曖昧な、でも確かに笑顔といえるものがそこにあった。
 ――― 面白すぎて、叶わない
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プロフィール
HN:
獅子えり
性別:
女性
職業:
大学生
自己紹介:
日本の真ん中あたりの都市に住処有。最近有名になった大学に在学。ドイツ語専攻中。ゲームは日常の栄養剤。小説書くのは妄想を形に(笑)本自体が好きという説明しがたく理解されにくいものを持っている。横文字は間違える。漢字は得意な方。英語は読み聞きはいいが話せない。他は自己紹介からどうぞ。
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